「戦後民主主義の虚妄」再考

 安保法案は廃案になる気配すら見せず、それに呼応するかのように法案反対のデモも規模を拡大している。しかし、メディアを通して見ている限り、安保法案の賛成派と反対派の意見が噛み合っているようには、どうしても思えない。
 その要因には、意識的にか無意識的にか、両者ともアメリカ軍への言及を避けていることがあるように思われる。賛成派にとっては、集団的自衛権の行使の大前提として、アメリカ軍の存在が必要不可欠である。しかしながら反対派にとっても、曲がりなりにも保たれてきた安定を持続させるために、アメリカ軍の存在が必要不可欠なのではないだろうか。安保法案賛否の表面的な対立は、両意見の存立条件が同じであること、すなわちアメリカ軍の存在が必要条件であることを隠蔽する機能を果たしているのである。したがって、安保法案に賛成であれ反対であれ、この点を明確に意識しない限り対米依存を強化することにしか帰結しない。
 これを論点とした議論が起こらないことに、私はある種の不安を覚える。またこの逃げ道の無さは、ある種のニヒリズムとも言える感覚を私に引き起こす。それでも私は、丸山眞男の言葉を借りれば、大日本帝国の実在よりは戦後民主主義の虚妄に賭ける。